【 あいいろの季節 】
――パタッ……パタパタッ……
ふと耳に入ってきた音に、マルスは目を通していた本から視線を上げた。
「なんだ?」
今この部屋には自分以外誰も居らず、何かを鳴らしているというわけでもない。
一体何だろうと、音の元である窓の外に目を向けてみた。
「……雨?」
――パタッ……ザーーー……
窓を叩く水滴と空の暗さに今の天気を呟くと、それ合図にしたかのように外を濡らす音が寄り一層激しいものになっていく。
ついさっきまで、雲は多少あれども太陽が顔を覗かせていたというのに、この世界の天気はなかなか気まぐれなようだ。
だが、そんなのんびりと構えていられない理由がマルスにはあった。
「アイク達、大丈夫かな?」
実は数刻前、アイクがネスとリュカに頼まれて一緒にお菓子を買いに街へと出て行ったのだ。
今ごろなら街についてはいるだろうから、店などに逃げ込めばずぶ濡れということは無いだろう。
けれどこのまま雨が降り続くなら、傘を持っていない彼らは帰って来られないのではないだろうか。
そう考え、マルスは迎えに行こうと思い立ち、しおりを挟んで少し分厚い本を静かに閉じた。
自分とアイク、それぞれとネスとリュカが一緒に入れば問題ないだろうと思い、自分が差す傘ともう一本を手に、マルスは部屋を後にした。
+ + + + +
「本当に行くのですか?」
ハルバードの出口へとやってきたマルスの目に飛び込んできたのは、しゃがみ込み、小さい誰かと話をしているゼルダ。
心配そうな彼女の視線の先には、いつもと同じ緑色の、けれど普段とは違うコートのような服装に身を包んでいるトゥーンリンクがいた。
「こんにちは、ゼルダ姫にリンクくん」
「あぁ、マルス。こんにちは」
「マルスだ、やっほー」
不安の色がにじみ出ているゼルダとは対照的に、トゥーンリンクはあっけらかんとした表情で挨拶をしてきた。
二人の様子が気になったマルスは、何があったのかと声をかけた。
「一体どうしたんですか?」
「実は小さいリンクが、一人でアイクやネス達を迎えに行くと言い出しまして。こんな雨だから待ちましょうと言ってるのですが……」
「オイラは大丈夫だって。ゼルダ姫は心配性だなぁ」
ぶぅっと少し膨れるトゥーンリンクに、「でも」とゼルダは顔を濁すばかりだ。
それにマルスはふっと笑みを漏らし、トゥーンリンクの前にしゃがみ込む。
「アイク達なら僕が迎えに行こうかと思っているけど?」
「ならオイラも行く!」
「ですが、雨が酷いですよ? マルスに任せては?」
マルスに付いていく気満々のトゥーンリンクに、ゼルダは頬に手を当てて困ったように問う。
それににんまりとした笑顔を返し、自らが羽織っている緑色の薄いコートを引っ張り、トゥーンリンクは言った。
「だからこれ着てるんだって。スネークのおっちゃんに貰ったんだよ」
「あぁ、これは雨除けなんだ?」
妙に見慣れない素材のように感じるコートに触れながら、マルスは納得が言ったように頷く。
「うん! 雨の日に使うやつなんだって。これなら濡れないしさ、だからいいでしょ? ゼルダ姫」
「ですが……」
「ネス達の分も貰ったんだ! せっかくだし……ね、お願い!」
「ゼルダ姫。僕も一緒に行きますから平気ですよ」
大きな目をきらきらさせているトゥーンリンクの様子から、どうやらこれを着て外を歩いてみたいのだろうと察し、マルスもゼルダを納得させようとした。
「そうですか……分かりました。ですが、転んだりしないよう気をつけてくださいね?」
「大丈夫だよ! ありがとうゼルダ姫!」
どう足掻いても引かないと判断したか、ゼルダもまた苦笑しつつトゥーンリンクの願いを聞き入れることにしたようだ。
「よし、じゃあ行こうか、リンクくん」
「うん!」
呼びかけると、よほど嬉しいのだろう。
満面の笑みで頷くトゥーンリンクの手を取り、マルスは傘を差して空から雨が打ちつける外へと踏み出した。
+ + + + +
(……雨、か)
視界を埋め尽くす水の雫をぼんやりと眺め、アイクは大きくため息を吐いた。
雨が嫌いと言うわけではない。
ただ、あまり良い思い出があるとは言えないのだ。
ここが森の中でなくて良かったと、アイクはふとそんなことを考えていた。
多分きっと、今以上に色々と考えてしまうだろうと思ったからだ。
(親父……)
「あ〜あ、雨全っ然止まないね」
「そうだね」
考え事でボーっとしてしまった耳に飛び込んできたのは、ネスの愚痴とそれに同意するリュカの声だった。
らしくなく、意識をどこか遠くに飛ばしてしまっていたアイクは、その声にハッと今の状況を思い出す。
ネスとリュカに頼まれ、お菓子の買い物に付き合って外に出てから数刻。
用事も済み、帰ろうかとなったときに空から雨が降り注いできたのだ。
それは僅かな時間であっという間に強くなり、雨具無しでは帰るのが困難なほどの強さになってしまった。
「霧雨なら走ってでも帰れるのにね」
店の横に無造作に積み上げられている木箱の上に腰掛けたまま、ネスは非常につまらなそうに空を見上げながら呟いた。
空から落ちる水滴は屋根や地面を強く叩き、僅かながら周りに白い霧を生み出しているようだ。
「マルス兄ちゃん、来てくれるかなぁ」
「大丈夫だろう。外に出てるのは知ってるからな」
数分前、どうやって帰ろうかとなったときにアイクが「マルスが気付いてくれるだろう」と口にしたのだ。
実際に出て行く時に顔を合わせているし、こう言う事に気付いてくれるのが『マルス』という人物だ。
自分たちが居る場所も、大通りの目立つ店だ。
人通りもなくなっている今、探すのも難しいことではないだろう。
「あれ? あれってリンクかな?」
大通りに漂う白い霧の隙間、リュカはかすかに見えた緑色を指差した。
その言葉に、ネスは木箱の上に立ち上がり額に手を当てて目を細めて辺りを見つめた。
「ん〜……あ、本当だ、リンクだ! マルス兄ちゃんもいるよ!」
言って嬉しそうに笑顔を見せるネスに、アイクも僅かに口元に笑みを見せて頷いた。
向こうもこちらに気付いたのだろう、歩いていたトゥーンリンクがばしゃばしゃと足元の水を跳ねさせながら駆け足で走り出してきた。
マルスもまた、傘を持った片手を上げて気付いた事を知らせている。
「やっほー、ネス、リュカ。それにアイクも。やっと見つけたよー」
雨の中を歩いてきたせいだろう、水滴に塗れたコートをバサバサと振りながら笑顔でトゥーンリンクは言う。
少し遅れて到着したマルスも「お待たせ」と声をかけた。
「リンクも来てくれたんだ?」
「うん、スネークのおっちゃんにこれ貰ったからさ。ちょっと着てみたくて」
「あ、これレインコートか」
えへへと笑うトゥーンリンクの着ているコートを引っ張り、ネスは納得したと頷いた。
「ネスとリュカの分もあるよ。着て帰ろうよ!」
「ホント? やった!」
「スネークおじちゃんもたまには気がきくね」
スネーク本人が聞いたら「おいおい」と言いそうなネスの言葉に、アイクとマルスは苦笑して三人の様子を見守った。
「すまん、助かった」
「ううん、大した手間じゃないさ」
少し申し訳なさそうなアイクにマルスは笑い、手にしていた傘を手渡す。
「一気に酷くなったからね。それに、多分来てくれるだろうって思われてるかなって」
「読まれてたか」
顔を見合わせてそう笑い合っていると、ネスが服の裾を引っ張ってきた。
「ねーねー、先歩いてていい?」
すでにコートを着終わっていた三人の、年齢相応のきらきらした視線にマルスは笑顔で頷く。
「良いよ。でも濡れないからって走ったりしたら危ないからね?」
「はーい! じゃあ行こう、リュカ、リンク!」
「おー!」
「あ、ネスにリンク! 走ったら危ないって言われたのに……」
言われた直後に注意された事を迷い無くやってのけるネスとリンクに、リュカは「あちゃ」という顔でこちらに振り向き、一礼をしてから「待って!」と同じように雨の降り注ぐ街の中へと駆け出して行ってしまった。
ばしゃばしゃと足が濡れるのも気にせず騒ぐ三人に、マルスも「仕方が無いか」と苦笑するだけにした。
フードもきっちり被っているし、顔が濡れる程度で体調を崩すような三人でもないだろう。
「僕らも行こうか、アイク?」
「そうだな」
はしゃぐ三人を追いかけるように、二人はゆっくりとした足取りで雨の中を歩き始めた。
空から降り注ぐ水は、まだ当分止みそうに無い。
+ + + + +
子ども達がキャッキャと笑いながら歩く雨の道を見つめながら、アイクはボーっとした頭で考えていた。
雨の日は、あまり気分が乗らない。
沈むというほどではないが、良い思い出が無いのが原因だろうか。
暗い森と、冷たくなっていく背中の体温。
あれが、命が消えていくと言う事なのだろうか。
「……ィク……アイクッ?」
唐突に聞こえた呼びかけに、アイクはハッと意識を取り戻して声の方を見やった。
左隣を歩いているマルスが心配そうな顔でこちらを見ている。
「どうかした? 考え事してた?」
「あぁいや……なんでもない」
「……本当に?」
「………………いや、まぁ、うん……」
言葉の裏に「ウソついたって分かってるんだぞ」というような強い意味が感じられ、アイクはどうごまかそうか一瞬悩んでしまった。
それが、マルスに「勘が当たった」と確信させたのだろう。
「聞いたら悪い事かな?」
言わないと言う事は「言えない」という事なのかもしれない。
アイクは口数こそ少ないが、言いたいと思った事ははっきり言うタイプだ。
それを分かった上で、「アイクが言わない」という事がマルスの中で引っかかっているのだろう。
言いたくないのなら無理に言わなくて良い、という言葉が聞こえてきそうだ。
マルスはそう言う風な気遣いをする性格だから。
「…………大した問題じゃない」
祖国そのものを失い、父も母も失い、自分以上の苦行を味わっているであろうマルスに比べたら、自分の考えていることなど過小だろう。
心配もかけたくないと、アイクはそう言って前を向いた。
だが、そう言う割に視線を逸らすアイクに、マルスは気がかりを拭えないままだ。
傘の束を握り直し、ふとアイクが左手に持っている手荷物が目に付いた。
おそらく、ネスやリュカと一緒に買ったお菓子だろう。
ふとある事を思い立ち、マルスはそれを指差してアイクに言った。
「アイク、荷物を持つ手、変えてくれないか?」
「は? 何だ、急に」
「良いからさ。お菓子、右手に持ってくれないか?」
急ににこやかに変な事を言い出すマルスに、アイクは僅かに眉間にシワを寄せながら言われた通りにお菓子の袋を右手に持ち替えた。
そして、右手に持っていた傘を左手で握り直し――
「持ち替えたぞ。何だ、一体」
『右に持ってくれ』とだけ言ったつもりだったのだが、どうやら『両手の物を持ち替えてくれ』と受け取られたのだろう。
「……………………えっと、そうじゃなくて……」
単純に左手を空けて欲しかったのだが、なんだかもう一度言う気も無くなってしまい、マルスは半分もう良いやとなどと思ってしまった。
言葉足らずな自分が悪いのだろうが、こんなちょっとしたボケをやらかしてくれたアイクに笑ってしまいそうだ。
(励ましになるかなと思ったんだけどな)
「おい、何なんだ一体?」
さっきからほっとかれてしまっていたアイクは、訳が分からないと言う風に首をかしげてばかりだ。
いけないと思い、どう言い直そうかと考えていると、ネスが水を跳ねさせながら傍に駆け寄ってきた。
「アイク兄ちゃん。先にハルバードに戻るから、荷物バックに入れてくれない?」
言って背を向けるネスに、アイクは持ち替えたお菓子の袋を上げて聞いた。
「これか?」
「うん! 早く戻ってお菓子食べるんだ。マルス兄ちゃん、いいでしょ?」
おそらく最初に「走るな」と注意された事を少しだけ気にしているネスに、「もう走ってるじゃないか」と笑いながらマルスは答えた。
ネスの後ろにしゃがみ込み、コートをめくってバックの中にお菓子を入れて少しばかり身を整えてやり、アイクは「入れたぞ」とその背を少しだけ押した。
「ありがと、アイク兄ちゃん! それとマルス兄ちゃん、アイク兄ちゃんはドが付くほど鈍いから、ちゃんと言ったほうが良いんじゃない?」
「は?」
「なっ……ちょっとネス!」
顔だけ振り返り、にっこりと言うネスにアイクはより一層首をかしげ、考えていた事がバレたと知ったマルスは顔を赤くしてしまった。
「あはは! じゃ、お先にねっ。リュカー、リンクー! ハルバードまで競争して、お菓子争奪戦しようよ!」
おそらく一位になったものから好きなものを取っていくと言うことだろう。
再び水を跳ねさせながら走っていくネス達を見送り、アイクはやれやれと言う風にため息を吐いた。
三人の足は雨のせいでずぶ濡れだろう。
きっと戻ったら、ピーチ姫やゼルダ姫に着替えた方が良いとせっせと世話を焼かれるに違いない。
「初めから走ってたが、競争までする気みたいだな」
走り出し、霧の中に消えそうな三人を見送りながら、しょうがないと苦笑するアイクに、マルスもまたそうだねと肩を落とした。
元気なのは良い事だ。
転んだりして怪我さえしなければ、と望んでいるだけの話なのだから。
「で、何だ。一体」
「え?」
「ネスが俺を『鈍い』と言った。お前、何か考えてたんだろう?」
「あ、あぁ。その事か……」
ネスはこういうことに非常に察しが良い。
困った事にそれをあっさり口にされてしまうのが悔しいのだけれど。
どうしたものだろうかと思ったが、丁度いい機会だと覚悟を決め、マルスはアイクの左手を指差した。
「傘、持ち替えてくれ」
「は? またか?」
本心から訳が分からないと言う顔をしつつも、アイクは言われた通りに左手から右手に傘を持ち替えた。
「よし、左手空いたね」
「あぁ。だから一体何なんだと…」
言いかけたところで、左手にふとぼんやりと暖かい体温を感じた。
「ちょっと濡れるけど、構わないよな?」
マルスが、自分の左手を握っていた。
「な、マルス……おい……」
突然の事に戸惑っていると、さっさと帰ろうとばかりにマルスはアイクの手を引っ張って歩き出した。
引かれる形でマルスの横に並びながら、アイクはその横顔を見つめた。
「一体何なんだ?」
今日何回目の言葉だろうと思いつつ、アイクは握られている左手とマルスの顔を交互に見やる。
マルスからこのような行動をしてくるとは非常に珍しい。
自分は何かしただろうかと考えるが、一向に何も思い当たらず。
何度も何度も首をかしげていると、青い瞳だけがこちらをちらりと見た。
「アイクがさ、なんか落ち込んでるみたいだったから」
そう言われて、そういえばそうだったかも知れないと思い出す。
雨の日の、あまり良くない思い出に駆られていたのは事実だ。
「だから、こうすれば少しは元気出るかなって」
頑張ったんだよって頬を少し赤らめて苦笑するマルスに、アイクはやっと「持ち替えろ」という言葉が「左手を空けろ」という意味合いだと気付いた。
ネスが自分を「鈍い」と言ったのはこういう意味か。
「すまん、気付かなかった」
「ん、まぁいいさ。僕もね、わざと遠回しに言ったし」
言って、マルスは少しだけアイクの手を握る力を強めた。
同じように、アイクの手にも少しだけ力が加わったのが分かった。
「……大した問題じゃないんだ」
雨の音にかき消されそうなほど、アイクにしては珍しい小さな声が聞こえた。
陰りの見える表情に、マルスは少しだけ目を細める。
「雨の日に、親父が死んだんだ」
その言葉に、思わず足が止まってしまった。
何が大した問題じゃない、だ。
「だから雨が降ると、なんとなく思い出して……それだけだ」
何が「それだけ」だ。
大きな傷じゃないか。
けれど、かける言葉が見つからない。
自分も同じように身内を亡くしている。
だからその辛さは分かるつもりだ。
だからこそ、何も言えなかった。
「アイク……」
なんとか名前だけを呟き、握っていた手により強い力を込めた。
痛がるような強さではないが、繋ぐのに必要かと思うほどの力を込めた。
アイクも自分も分かり過ぎている。
散った命は絶対に戻って来ない、と。
どんなの望んでも絶対に戻って来ない、と。
止まってしまった鼓動は、どんなに願っても甦る事は無い、と。
だからこそ、それを乗り越えるには自分の意思でどうにかするしかないのだ。
悲しみに飲まれて堕落していくか、涙を振り払い、前に突き進むか。
それは、己の意思で決まるのだ。
アイクも自分も、自らの意思で突き進んで、そして今を生きているのだ。
そう選んだのは、自分達なのだ。
「……アイクの父上は、強かった?」
それは他愛も無い質問だったかもしれない。
悲しい記憶を抉るような、酷い質問だったかもしれない。
けれど、いなくなった人に対する思い出は、悲しいだけのものではないはずだ。
「……あぁ。俺の目標だった。今でもそうだ」
「僕も同じだ。僕も父上を目標にしてたし……すごく尊敬してた」
「俺は稽古でいつも負けてた。手玉に取られて、情けないったらありゃしない」
「アイクにもそんな時があったんだ?」
少しだけ笑うと、アイクは困ったような笑顔を見せた。
「俺だって最初から戦えたわけじゃないし、強かったわけでもない。今でも強いとは思ってないが……」
「十分強いじゃないか。欲張りだなぁ、アイクは」
ようやく普段の表情に戻ったアイクに、マルスは少しばかり安堵をした。
人の死は、辛くて悲しくて、嫌な思い出として強く刻まれる。
けれど、それだけに捕らわれていたら亡くなった人はどう思うだろうか。
自分が死んだ時、周りの人がひたすらに泣きじゃくって座り込んでしまったら、どう思うだろうか。
そう考えた時、自分は少しだけ前を向けた気がする。
記憶の中にあるのは悲しい物だけじゃないはずだ、と。
笑い合った記憶も確かにあるのだ、と。
二度と手に入らないかもしれないが、自分の記憶からそれが消えるわけではないのだ。
「……アイク、ハルバードに戻ろうか?」
歩みを止めたまま、マルスはアイクを見つめた。
穏やかな微笑を浮かべて。
「あぁ、そうだな」
それに頷くアイクも、先ほどよりはずっと楽になった表情をしていた。
「気を使わせたな。すまん」
「いいや、全然」
頼ってくれないよりはずっとマシだよ。
そう付け足して、マルスはアイクの手をぎゅっと握り締めた。
「しかしな、マルス。手を繋ぎたいなら素直に言え」
「う、うるさいな! ネスが言ってたじゃないか、アイクが鈍感すぎるんだっ」
「俺のせいか」
「キミのせい」
「そうか」
ふっと、アイクが笑った。
「マルス、ありがとう」
「っ……別に、いいよ」
思わぬ言葉とその表情に顔が赤くなる。
それでも、少しでも力になれたのなら嬉しいと思う。
傘の合間にある二人の手は濡れてしまっていたけれど、不思議と暖かさが消えることは無かった。
* * *
ちょっとしたヨタ話。
塊魂の「さくらいろの季節」を聞いていた思いついたネタと言いますか……
この曲を聞いていると、子ども三人組とマルスとアイクがのんびり散歩してる風景が頭をよぎるんです(笑)
そこから派生した話だったりします。
本当はマルスのツンデレ本領発揮+ちょっと甘いだけのネタだったんですが、
グレイルさんが雨の日に亡くなってるのを思い出し、話の方向性をちょっと変えました。
結果、アイクがヘタレたというかしょぼくれに……でもこういう部分があるのもアイクかなって思います。
本人は沈んでると思わないんだけど、周りが気になるほどに実は落ち込んでると言う。
少しくらい、アイクにも弱い部分があってもいいかな、と思ったので書いてみました。
タイトルは曲名もじりと同時に、色々とかけて付けてみたり。
* * * *