【 いつか君が気付く時 】
――むにゅ。
「……何してるの、マルス兄ちゃん」
「んー?」
――むにゅ、むにゅ。
「……あのー?」
「んー?」
――むにゅむにゅ、むにゅ。
「……っだぁから、マルス兄ちゃんってば!」
「んー?」
相変わらずそれしか言わないマルスに、ネスは頬に触れている手を叩きながら抗議の声をあげた。
「んー、じゃないよ! ほっぺつねるの止めてよ、もう!」
「あれ? 痛かったかい?」
「痛くはないけど……なんかくすぐったいからやめてよ」
「そう? 残念」
どこかおどけたように、でもやっぱり残念そうな雰囲気を少しだけ見せて、マルスは腕の中のネスを開放する。
膝の上に乗せられ、後ろから抱きしめられたままなぜか頬をいじられまくって。
この人の訳の分からない行動は、いつもと言えばいつもだけれども。
「もー、一体なんなの?」
「いやぁ、ネスのほっぺはやわらかいからさ」
にっこにこと、それはもうなんというか、見るものの目を惹き付けるようなまぶしいさわやかな笑顔で、
「可愛くて、食べちゃいたくなるんだよね」
マルスははっきりと言い切る。
相変わらずなこの青年の調子に、ネスはため息を吐くぐらいしか対抗が出来ない。
「ぼくのほっぺは食べ物じゃないよ」
「でもやわらかいのは確実だよね。ちょっとおいでよ」
笑顔のまま、マルスはちょいちょいと手を動かして離れてるネスを呼ぶ。
少しの合間、むぅっと考えるように頬をふくらませたネスだったが、まあ変な事はしないだろうなと思って近寄る。
そうして再び抱き上げられ、マルスの膝に下ろされる。
この、明らかに子ども扱いしたような体勢をネスは好んでいないのだが、反対にマルスはお気に入りの様子。
隙あらば、大抵このように後ろから抱きしめられるのだ。
「んー、やっぱりやーらかいね」
にこにこと、それはもう至福のような表情で言うマルスを、ネスは少し不満そうに振り返り見る。
だがそんなのはお構い無しにマルスは問う。
「ねぇ、キスしていい?」
「ダメ」
「えぇー? うーん、じゃあ勝手にするから」
「ちょ……んむぅっ」
抗議の声を上げようとする口を手で抑え、マルスはその唇をネスの頬に寄せる。
頬に触れるやわらかい感触と濡れた音に、ネスは顔がカッと熱くなるのを感じた。
「んー、やっぱりやーらかいね」
数分前と同じ台詞を言い、マルスはネスが顔を赤くしているのを理解しながら頬を摺り寄せる。
「どうしたの? 顔が赤くない?」
「あっ、赤くなんかないって!」
「そう? 僕の見間違いかな?」
「見間違いだよ! 絶対見間違い!!」
「そう? それは残念」
バレてる。
後ろでくすくす笑うマルスがそれを証明している。
この人にはいつもいつも負けてしまう。
隠し事も出来ないし、欺こうとしても簡単に見抜かれて。
「もう、ずるいよ……」
「ん?」
「……マルスはずるい!」
ふいに飛び出した、二人きりの時に出るネスの呼び方に、マルスは少し目を見張った。
「そうやってぼくを弄んでさ、したい放題でずるいや」
「弄ぶなんて、そんなつもりないよ?」
「どうだかー。子どもだからってさー……」
ブツブツと文句を言い出したネスに、マルスはやれ困ったと苦笑した。
「分かってないなぁ、ネスは」
「何がぁ?」
「うん? 分からないなら、やっぱり分かってないなぁ」
「だから何がっ?」
抗議だとばかりに手をバタバタさせ始める少年に、マルスは困り顔ながらも愛しいそうな視線を送る。
――意地でも構いたい、傍にいたいって思わせるくらい、キミが僕を弄んでいるという事実に。
「いつ気付けるのかなぁ?」
「だから何がってば!」
「んー? ふふっ、秘密だよ」
「何それ……まったくもう……」
そうしてまたも膨れる少年を抱きしめ、マルスは笑った。
捕らえているつもりで捕らわれているのは自分だ。
この少年は歳相応に様々なことに興味を引かれては自由に飛び回る。
彼の世界は、自分だけに納まってくれないのだ。
「まったく……早く気付いてよね、ネス」
僕のこれだけの想いを知ったなら、キミはもっと僕を見てくれるのかな?
* * *
超絶どうでもいいヨタ話。
マルネスに関しては、かなり『マルス→ネス』が強くなってます。
なんとなくね、そんなイメージがあるんです……
でもこのネスも、ちゃんとマルスのこと好きですよ? マルネス小話だもの!
* * * *