【 まごにも 】
隣を歩く靴音が違う。
そんな小さな変化に気付くだけで心臓の鼓動が早くなる。
些細な違い、だけど、慣れない違い。
+ + + + +
その日の朝、リュカは普段と同じように少しだけ寝ぼけたまま廊下を歩いていた。
今日は少しだけ、いつもよりも寝過ごしてしまって髪の毛もはねたままで。
あくびを堪えながら眠気で瞬きを繰り返す目をこするリュカの耳に、その声は唐突に響いてきた。
「うわー! 雰囲気変わるね〜!」
朝にしては大きいそれはトゥーンリンクの声。
一体何があったんだろう、と未だ半分夢心地のままリュカは声のした部屋へと歩いていく。
「……アイクさんの部屋だ」
開きっぱなしのドアの位置を見て、その部屋主を思い出してポツリと名をつぶやく。
少しだけボーっとその方を見つめた後、リュカはゆっくりと目をこすりながら部屋の中を覗き込む。
「おはよう、ございま……」
そう挨拶をつぶやきながら顔を出したリュカの目に飛び込んできたのは、普段通りの緑衣をまとったリンクとトゥーンリンク。
そしてその部屋の主の、アイク。
だけれど見慣れた二人とは別に、アイクは少しばかり様子が違うように見受けられた。
まだ身に纏ってはいないが、手にしている普段は赤いはずのマントが彼自身の髪と同じような青に変わっている。
違いはそれだけではない。
マントとは逆に、普段は青かった服は裾の長い落ち着いた深緑色へと変化しているのだ。
「アイク、さん?」
雰囲気の変わったアイクに、リュカはその人物の名前を呆然とつぶやく。
こう言ってはなんだが、アイクの普段の服装は決して高価と言えるものではない。
それは自分と同じように身分を持たない「普通の人」であるが故なのだが。
しかし今の姿は決して豪華ではない、シンプルながら品位を感じさせるものがある。
「おっはよー、リュカ!」
「あ……お、おはよう……」
普段と違う姿のアイクに思わず見惚れていたリュカはトゥーンリンクに呼びかけられ、はっとしながらも部屋の中へと足を踏み入れる。
先に部屋にいたリンクとも挨拶を交わし、いざアイクへと向き合う。
「おはようございます……」
「あぁ、今日はいつもより遅かったな」
苦笑しながら手を伸ばし、髪に触れてくるアイク。
「髪、直してないのか? 跳ねたままだぞ」
「え……あっ!」
そういわれて、リュカはまだ自分が完全に身支度が終わっていないことを思い出した。
「あの、あの……すみません、急いで起きたから……」
目の前にいる青年が普段とは同じように思えず、リュカは少しだけ恥ずかしくなって両手で髪を押さえながら少しだけ後退る。
普段と服装が違うだけだというのに、どうにもアイクを直視することが出来ない。
身に纏う物が変わるだけで、ここまで雰囲気も変化するのだろうか。
おそらくアイク自身はまったく何も変わっていないのだろうけれども、発する物が別物になっているようにも感じるのだ。
これが一軍を率いるほどの彼の魅力なのかもしれない。
「おや、また例の服なんだ」
と、次に飛び込んできたのはマルスの声。
全員が声のしたドアの方を見ると、入り口で物珍しそうにアイクを見つめる当人の姿が。
「来たか、冷やかしなら帰れ」
「ひとっ言もそんな事言ってないじゃないか」
目を細め、心の底から嫌そうな空気を出すアイクにマルスは「やれやれ」と苦笑しながら入ってくる。
「あの、例の服ってなんですか?」
ふとマルスが言った単語が気になり、リュカはマルスに問いかける。
それを聞き、首をかしげながら彼はアイクに目を向けた。
「キミ、何にも話してないのかい?」
「爵位やらなんやらはリュカには関係ないからな」
「関係ないというか、キミがそれを嫌ってるから話すのが嫌だ、という風に思えるけど?」
「……ほっとけ」
痛いところを疲れたのか、ふぅとため息を吐き出すアイク。
リンクとトゥーンリンク、リュカの三人は事情が分からずに顔を見合わせる。
「アイクが軍を率いたというのは知っているよね?」
そっぽを向いて話す様子のないアイクに代わり、マルスが口を開く。
その問いかけにリュカはこくりとうなずく。
「その時にね、彼は王女……今は女王か。その方に爵位を貰ったんだって」
「『しゃくい』ってなんなの?」
直球なトゥーンリンクの質問に、マルスは少しだけ上目になって「そうだね」と考えてから答えた。
「単純に言えば、ちょっと偉い人の仲間入りをしたってことかな」
「偉い人?」
「そう。僕らの世界は身分意識が強いからね。見合った立場には見合った地位を……ってわけ」
説明するマルスとは対極に、もうあまり関わりたくないオーラを出して身支度を進めるアイク。
「それってつまり昇進ってことだろ?」
「簡単に言えば」
「その割りに、アイツはすげー嫌がってそうだけど?」
「実際に嫌なんでしょ?」
そんなやり取りを交わすリンクとマルスにさえも関わろうとせず、普段どおりにバンダナを締めて。
そうして一息ついてから口を開いた。
「俺は別に地位が欲しいから戦ったわけじゃない」
それは本当に彼の本心だろう。
そんなアイクの人間性を十分に理解しているマルスも、「それも知ってるよ」とくすりと笑う。
「で。その時に、一緒にこの服も渡されたらしいよ」
無理やり押し付けられた感が思い起こされるが、なんだかんだでそれを纏うアイクは様になっているとマルスは内心では思う。
人の上に立つ立場から見ても、アイクの人を惹き付ける力は良いものだと分かる。
良き主から見ればすばらしい人材に、私利私欲にまみれた人間から見れば疎ましい存在に。
それほどにアイクの魅力は強いのだ。
本人にはまったく自覚はないようだが、それも「嫌味がない」と彼自身を持ち上げる要素になってしまう始末だ。
「そんで。またどうしてそんな着たくなさそうな服を今日は着てんだ?」
「城に来いって呼び出された。いつもの格好で行くと周りがやかましいんだ」
「呼び出しって誰に?」
「エリンシア」
「エリンシア?」
「アイクの国の女王様。彼が先の戦争で救った祖国の王女で、即位したそうだよ」
アイクが当たり前に出した名前に首を傾げるリンクに、簡素に回答を寄越したのはマルスだった。
「お前、詳しいな」
「タブーを倒すとき、道中一緒にいたから色々話したしねー」
違うけれど、でも似たような世界を生きるマルスからすればアイクの状況は聞かずとも理解出来る事は多い。
そうでないにしても、実際にたくさんの話をしたのは本当でウソはどこにも一つもないけれど。
「俺の話はもう良いだろう。それよりマルス、リュカの髪の毛直してやってくれないか?」
勘弁してくれという色がにじみ出た声で、アイクは身支度の手を止めてリュカの髪を撫でながら言う。
「俺もまだ準備終わらないし。頼めるか?」
「いいよ。じゃあリュカくん、この部屋の主はブラシ使わないから、こっち来てもらっていい?」
「あ、はい」
遠まわしに無精だと表現するマルスに「アンタなぁ」とぼやきながら身支度を進めるアイクを後ろ目に、リュカは促されるまま部屋を後にした。
+ + + + +
――アイクさん、けっこう雰囲気変わるんだなぁ……
「様変わりしたアイクはどうだった?」
「ぅえッ?」
髪を梳き始めてもらって少しして。
マルスは椅子で少しうつむいていたリュカの心を見透かしたような質問を投げかけた。
「あ、ちょうどアイクのこと考えてた?」
「う……はい」
否定してもこの人には大抵の事は読まれている場合が多い。
照れ交じりのため息を吐き出して、リュカは小さくうなずきながら先ほどのアイクの姿を再び思い起こす。
普段とは違う質感、色、デザインの服。
それは些細な違いで、彼そのものにはなんら変化など無いというのに、どうしてあんなに変わっているように見えるのだろう。
「まだ服だけだったけど、ちゃんと着込むとまたイメージ変わると思うよ」
「マルスさん、見たことあるんですか?」
「一回だけね」
飛び跳ねてぼさぼさになっているリュカの前髪を梳きながら、マルスはその時のことを思い出す。
立場上、元の世界の自分の国の人間とやりとりをすることが多いマルスは、その日も自らの家臣と顔を合わせながら色々と話をしていて。
ふと横から、今回とは違う用件で元の世界に戻っていたアイクがこちらに再び舞い戻った瞬間を目にしたのだ。
マスターハンドが用意してくれた元の世界との行き来の方法は、彼の部屋にある特定の扉を使うという簡易なシステムで。
たまたまアイクがその扉から出てきた所をマルスが目撃したのだ。
「あの時もお貴族様と話してたのか疲れてたみたいだけど。でも、なかなか様になってたよ」
「へぇ〜」
「一瞬驚いてね。思わず『誰?』なんて言ったらすごい勢いで睨まれた」
笑いを零しながらおどけて言うマルスの様子から、アイクがどんな表情をしたのか易々と想像したリュカもつられてクスリと笑う。
「女王様とお話しするのって大変ですよね」
ふと元の世界でこれからのアイクの予定を考え、リュカはマルスに問う。
年上などと接する機会はあっても「身分」というものがあったわけではないリュカかすれば、偉い人と話すという漠然とした感覚しか持てず。
「まぁ彼の場合、難敵なのは女王よりその周りだろうけどね」
「?」
「女王陛下とはかなり親しいみたいだよ。周辺があまりいい顔をしていないんだろう」
「……なんだか難しそうな話ですね」
「そうかもねぇ」
マルスの言わんとすることがあまり理解できずに首を傾げるリュカに、気にしなくていいんだよと軽く諭す。
アイクがリュカに望んでいるのは、そういうことを理解することではないのだ。
「ま、帰ってきたら笑顔でねぎらってあげるといいよ」
それがアイクが望むことだからと言い切り、マルスは最後にリュカの頭を撫でる。
「はい、終わったよ。前髪は跳ねちゃうんだね」
「ちょっと癖があるんです……」
恥ずかしそうに前髪を押さえるリュカにマルスは笑みをこぼす。
「いいんじゃないかな。僕なんか変化のしようがないからつまらないよ」
そういって前髪をバサバサと振り乱し、そして何度か手で梳くだけでその青い髪は元通りになる。
「ほら」
「サラサラで羨ましいです」
「僕からすると女の子みたいって言われるし、複雑。お互いに無いものねだりだね」
そういって笑い合っていたところで。
「マルス、終わったか?」
ドアが開く音と同時に聞こえた呼びかけ。
声でそれが誰かを理解したマルスとリュカは顔をその方に向け、
「やぁ、丁度今終わったよ」
言いながらいたって普通に対応するのはマルスで。
「………………」
その姿を思わず見つめて黙り込んでしまったのはリュカで。
「寝癖、取れたみたいだな」
言ってかすかに微笑むその表情。
部屋に現れたのは身支度をきっちりと終えたアイクだった。
マルスの言っていた、例の服の姿。
顔も、紺碧の短い髪も、アイクそのもの。
けれどもいつもの服はさっきも見た裾の長い深緑色の服。
左の肩当ても普段のシンプルなものとは代わり、青い鎧のようなデザインに。
見慣れている赤いマントも同じく青色へと変わり、だいぶ落ち着いた風に感じる。
他にも細々と様変わりした姿を、リュカはアイクへの返事も忘れてじぃっと見つめてしまっていた。
「……やっぱり変か」
苦笑してマントを掴むアイクの言葉に、やっと自分が見とれていたと気付いてあわてて首を横に振る。
「そ、そんなことないです、似合ってます!」
「そうか?」
少しだけ複雑そうに首を傾げながらも、アイクはありがとうと返してマルスに向き直る。
「髪、綺麗に直ってるな」
「いじるのは好きだからね。リュカくんの髪はふわふわでいいね〜」
軽く会話を交わす二人を横目に、リュカは再びアイクへと視線を向ける。
今の服装もシンプルな部類であると思う。
それでも身にまとう物が変わるだけで雰囲気が一変するのは、元々彼が持ちえている物もあるのだろう。
本人にまったく自覚はないようだが容姿も人に劣るものではない。
彼自身が望んでいるかどうかは別にしても、この服が実際に似合っているのだからしょうがない。
マルスがやたらと茶化していたのも、一つの証拠かもしれない。
「で、もう出発するのかい?」
談笑が終わりかけたのか、マルスがアイクにそう問いかける。
「あぁ、色々と準備あるからな」
そう答えるアイクはやっぱりどこか渋り顔で、マルスは苦笑を返すしかない。
「英雄殿も大変だねぇ」
「勘弁してくれ、俺はそんなんじゃない」
首を横に振り、
「アンタなら分かるだろ」
そう含みのある言葉を続けたアイク。
なんとなくその真意を理解したマルスは複雑そうな眼差しでアイクを見つめ、しかしすぐに目を閉じてそれをやめる。
「それじゃあリュカ。俺は行くから」
「あ……はっ、はい」
呼びかけられ、はっと慌ててそんな返事を返すリュカ。
マルスはそんなリュカを見て、そしてアイクを見て再びリュカを見て。
「見送り、行かないのかい?」
「え、あ……」
なんとはなしに、普通に出されたマルスの言葉にリュカはアイクを見上げる。
行ってもいいのだろうか、そんな意味合いの視線に、
「……無理強いはしないが」
見つめられたアイクは小さめの声で言う。
「来なくていい」とはっきり拒否をしないということは、どちらかと言えば「来てくれれば嬉しい」という意味合いが強い。
長い間ではないが、アイクと一緒にいるうちに覚えた彼の性格。
「お見送りしていいですか?」
その答えに微かに笑ってうなずいたアイクの表情が、リュカの考えが当たっている事を示していた。
「じゃあ、行きましょう」
本当は見慣れない、けど見惚れるような姿のアイクの横を歩きたいというリュカの願望もあったのだけれど。
そんな考えに気付かれるのは恥ずかしいから、リュカは普段どおりに笑って誤魔化すことにした。
+ + + + +
カチャカチャと、金属が擦れる音が靴音と一緒に響いてくる。
ふと横目にアイクの足元を見ると、普段の靴とは違う装飾品が目に付いた。
(足にも鎧、つけたりするんだ)
ブーツの前面を覆う青色のそれを眺め、肩の鎧もそんな色だったなと思い出して彼を見上げてみる。
普段は赤と青の色彩の彼だが、今はほとんど青や緑の色をまとっていて落ち着いた雰囲気になっている。
――英雄殿も大変だねぇ。
ふとマルスがアイクにかけた言葉を思い出す。
青いマントをひるがえして歩く姿は、リュカが知る「英雄」という言葉そのままだ。
強く、勇ましく、揺るがぬ信念を持った――
「……はぁ」
と、そんなアイクがリュカの目の前でため息をついた。
思わず足を止めると、そんなリアクションに気付いたアイクもまた足を止めてリュカを見つめた。
「あぁ、すまん……つい……」
情けないところを見せたな、と少しばかり笑うアイク。
「女王様達と会うの、そんなにいやなんですか?」
あまりに先ほどから渋るアイクの様子に、リュカは思わず問いかける。
いくらアイクが礼儀などを苦手にしているとはいえ、ここまで嫌悪を見せるのは珍しいと思ったからだ。
「いや、別にエリンシア達と会うのはいいんだが。その周りがな」
「周り……ですか?」
「あまり俺をよく思っていないのが多いらしい」
アイクの答えに、先ほどのマルスの言葉が頭を過ぎる。
――まぁ彼の場合、難敵なのは女王よりその周りだろうけどね。
「嫌われてる、んですか?」
「かもな。一端の傭兵風情が、と思われているんだろう。俺はエリンシアからの依頼をこなしただけなんだがな」
そこまで吐き出し、アイクはついに手を腰に当て、
「嫌うのは構わない。それなのに声をかけてきたり、いちいち嫌味を言ったり……なんで嫌いな俺にかまうんだか。理解できん。はっきり言ってうざい」
そう一気にまくし立て、盛大にため息をついてやれやれと首を左右に振る。
そんなしぐさが、なんだか先ほど思い浮かべた「英雄」などとはかけ離れて見えて。
「……っふふ、あはは……」
失礼かとは思ったが、あまりにも珍しいアイクの姿にリュカは思わず噴出して笑ってしまっていた。
アイクに憧れを抱いてはいるが、それ以上に同じ人間なのだと感じてしまったからだ。
「ガキっぽいだろ?」
「すみません。ちょっとだけそう思いました」
自嘲気味なアイクには申し訳ないかと思ったが、素直にうなずいておく。
「それでいい、どうせ俺はガキだ。礼儀も作法もめんどくさがるしな」
「でも、アイクさんを嫌う人はそういうのが理由ではないんでしょ?」
「違うだろうな。いや、こんな態度も毛嫌いに拍車をかけているのかもな」
「直すつもりは?」
「……直して仲良くなるぐらいなら、このまま距離を置くのを選ぶ」
ほんのわずかの合間に選んだ答えが、アイクらしさを物語っているなとリュカは思う。
礼儀や作法は時と場合によっては必要であろう。
それがない事を「無礼」と言うのだろうが、それがない変わりにアイクは誰に対しても同等の態度をとっている。
人間であろうと人間でなかろうと、そういう種族の違いで接する態度を変えたりはしない。
それはアイクが元の世界での同じ人間や、そうでない人種の者も「友」や「仲間」と称する様子から察知は出来る。
良し悪しはあれど、それがアイクなのだ。
「大変かもしれないけど、頑張ってきてください」
先ほどまではいつもと違う見た目に緊張していたが、やはり中身は変わらずということかとリュカはアイクの背中を押そうと笑顔を見せる。
「ぼく、待ってます。帰ってきたら愚痴とかたくさん聞きますから、ね?」
ニコリと笑うリュカの表情に驚きながらも一瞬目を奪われて。
「……すまん、ありがとう」
言いながらリュカに合わせる様にしゃがみこみ、その幼い身体を何気なく抱きしめる。
あまりにも急な出来事で、それにアイクがいきなりこのような行動を取るのが珍しくてリュカはその腕の中で少しだけ身じろぎをしてしまった。
「あ、アイクさん……!? 急に何を…」
「元気もらっていいか?」
思わず驚いたリュカに構うことなくそう言い切って、少しだけ抱きしめる力を強める。
痛くない程度に、けれどもっとリュカの鼓動を感じれるように。
抱きしめたリュカの肩口に顔を埋めると、やわらかい金色の髪が頬をくすぐる。
それが少しだけ心地良い。
「頑張ってくる」
そう肩に額をつけたままつぶやくと、硬直していた細い腕がゆっくりと動いて背に回された。
そして少しだけ、本当にかすかに力が込められたのが分かった。
言葉のない応援に肩の荷が下りるのを感じ、アイクはリュカを抱きしめていた腕を解いていく。
「急に悪かったな」
「い、いいえ……」
アイクの問いに首を左右に振るリュカ。
きっと顔が真っ赤になっているだろうなと思いながら、歩き出すアイクの少し後ろを着いて行く。
しばらく、お互いに無言のまま廊下を進み。
元の世界へとつながっているマスターハンドの部屋まで来ると、アイクは再び足を止めてリュカの方を向いた。
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい、アイクさん」
そう笑顔で答えると、アイクはリュカの頭をゆっくりと撫でてくれた。
「見送りさせてすまんな」
髪を指で梳きながら、アイクは続ける。
「行く前に抱きしめたかったんだ」
「え……」
「でも、お前は人がいると恥ずかしがるから。見送りに来てくれて良かった」
二人っきりになれたしな、と告げるだけ告げて、アイクは「じゃ」と扉の開いて奥へと進んでいってしまった。
「抱きしめ、たかったって……」
なんとか心臓の鼓動が収まってくれたというのに、最後の最後でそれが乱されていく。
「あぁ、もう……」
顔が熱くなっていくのを感じ、赤くなっているであろう耳を隠すように両手で押さえ込んでリュカはぶんぶんと首を左右に振った。
「アイクさんのばか……」
帰ってくるときの姿も、出て行った時と同じ姿のはずだ。
きっとまた、朝よりはマシになったとはいえ鼓動が高鳴るのは止められないのだろう。
愚痴を聞くと、少しでもアイクの気がまぎれればと思って言った言葉を後悔する。
「ぼく、アイクさんと顔会わせられるのかなぁ……」
そんな事を呟いて思う。
なんて幸せな悩みをぼくはしているんだろう、と。
* * * *
ロード服ネタ書きたくて(笑)
いや、どう考えてもカッコいいに決まってる、と……
もちょっと色々描写すれば良かったかと思いつつ、正直見てるのが一番好きなので書ききれないというジレンマ!
どうしてスマブラの色変えにロード服がないのかと今でも残念に思ってる始末です。
* * * *