【 傍に、隣に 】
その日の対戦を眺めててなんとなく感じた違和感。
今までの大会にもフルに出場していて、PSIを駆使しての戦い方も子どもらしからぬ強さを見せる彼が。
「珍しいな、ネスが力で押し切られるなんて」
誰が言ったかは覚えていないけれど、確かにネスの様子はリュカから見ても変だった。
PSIの力具合を見ても、どこか弱々しさがにじみ出ていて。
「どうしたんだろう、ネス……」
朝は体調が悪いという様子も無かったはずだ。
リュカはネスの異変にハラハラしながらその試合を見つめた。
――結局、粘ってはいたもののネスは敗北を帰してしまった。
+ + + + +
「リュカー、ハンバーガー二つ食べるの?」
午前の試合が終わり、がやがやとファイター達が集まり出した食堂。
昼食ののったトレイを手に窓際に座ろうとしていたリュカに、おにぎりやパンを文字通り山のように積み上げているカービィが声をかけてきた。
「うん、お腹空いちゃって。カービィは相変わらず凄いね」
「あとでおかわりもするよ!」
よくトレイから落とさずに持てるなぁと半分関心しながら、リュカは隣の席をカービィに勧めた。
「そういえばネス、大丈夫かなぁ」
「あ、うん……」
両手で交互に食べ物を運んでいくカービィの言葉に、リュカは開けようとしていたハンバーガーの包み紙から手を放して辺りを見回した。
ほとんどの人数が揃っているが、そこに赤い帽子の少年は見つからない。
普段なら一緒に食事もするし、負けたとしても試合が終われば真っ先に来てくれるのに。
「なんか元気なかったよね?」
「そうだね……」
「具合とか悪かったのかなぁ、大丈夫かなぁ」
食事の手を止め、ションボリとするカービィの頭を撫でて、リュカはおもむろに席から立ち上がった。
「リュカ?」
「ちょっとネスを探してくる」
取ってきた袋にハンバーガーを二つ入れて一緒に持ってきていたジュースを手に、リュカは食堂を後にした。
ネスの居場所は、意識を集中すればなんとなく感じとれた。
同じPSIを持つ者同士だからだろうか、互いに互いを探す時は非常に便利だった。
ただネスの異変がPSIにも現れているのか、感じる力がいつもより遥かに弱かった。
本当に具合が悪いのかもしれない。
ネスは――自分もそういう傾向があるが――具合が悪くなったりしてもよっぽどでなければ言い出したりはしない。
それは多分、子どもとはいえ一人前のファイターとしての意地とか強がりだったりするのだけれど。
ネスとリュカの場合、お互いの調子がなんとなく感じとれてしまうため、周りと同じようにお互いに隠すのが難しいのだ。
でも朝のネスは本当に普通だった。
違和感なんて何も感じなかったのに、対戦ではあの調子で力も確実に弱くなっていた。
「こっち、かな」
目隠しで、指先だけで細い糸を探るかのような感覚を辿り、リュカはハルバードの廊下を走り抜けて一枚の甲板への扉にたどり着いた。
背伸びをして扉の丸い窓から外を覗くと、見慣れた赤い帽子と黄色いリュックが見えた。
彼はしゃがみこんでいるようで、動いている様子はない。
意を決して扉を開け、外に出てみる。
思ったよりは優しく頬を撫でていく風と眩しい太陽に、リュカは目を細めた。
「ネス?」
数歩分距離を上けて声をかけると、その肩が小さく揺れたのが分かった。
「……リュカ?」
声は、掠れていた。
僅かに見えた目も赤くなっていて、擦ったようで……
「ネス、どうしたの……!?」
想像していなかった様子に、リュカは小走りに駆け寄り顔を覗き込む。
けれどネスは普段は横にしている帽子のつばを前に動かし、膝に顔を埋めてしまった。
「ネス?」
「大丈夫、なんでもないから……」
通じないのを承知の上でのウソだとすぐに分かった。
きっと、関わらないで欲しいという彼の意地だったのだろう。
けれど、リュカは口や態度とは違うものでネスの気持ちを感じていた。
隠しきれていない、切なくなるほどの淋しさ。
それは、自分が一番知っている悲しい感情。
「でも」
「ん、本当に大丈夫だから……」
そんな風に言われても、リュカにはとても放っておくなど出来なかった。
こういう時に一体何をしてほしいのか、それは自分が良く知っているつもりだから。
「ネス」
拒否されてもいいと、リュカは身体を小さく丸めて座るネスを横から抱きしめた。
背に腕を回し、手で頭を撫でながら。
「ネス、一人で泣かないで」
心の底からの思いを告げる。
「ぼくじゃ頼りないかもしれないけど、一人よりはずっと良いはずだよ」
ゆっくりと、静かに言葉にして。
「理由はいいから。でも、一人で泣かないで」
淋しさが増えるだけだから。
「……リュカ」
弱々しく名前を呟いたあと、ネスは膝を抱えていた腕をほどいてゆっくりとリュカの背に回した。
最初は触れていただけだったが、しばらくして服を握りしめてきたのが分かった。
少しずつ淋しさが薄れていくのを感じながら、リュカはネスを抱きしめ続ける。
時折聞こえる鼻をすする音と、堪えているのだろう、微かな泣き声だけがしばらく続いた。
「ママ……」
「ん?」
「ママに……会い、たい」
小さく小さく囁かれた本音に、リュカはやっと落ち着いたかと安堵した。
「そっか、お母さんに会いたかったんだ」
ここにいる間は、よほどの事がなければ一時帰宅のようなことにはならない。
マス夕ーハンドいわく、頻繁に行き来するのはお互いの世界のバランスを壊しかねないとのこと。
ネスの言葉に自分も、父親と離れてしばらく経つんだなと実感してしまった。
「そうだ、今度マス夕ーハンドにお願いしてみない?」
「?」
リュカの言葉に、ネスは顔をゆっくりと上げる。
彼の未だに涙が溜まっている目元を指先で拭いながら、リュカは満面の笑顔で言った。
「ネスがお母さんと話せないか、連絡でも出来ないかって」
「……でも……」
「ぼくだってお父さんと話したいもの」
そしてもう一度ネスを抱きしめる。
「ネスだけじゃないよ。淋しいって思ったりするのは」
意図せず感じ取れてしまう、隠しきれていない切ない思い。
それを抱えたままの表情なんて、見ているのも辛くなる。
「淋しかったら言って。ぼくじゃ頼りないし、どうにも出来ないかもしれないけど……」
見ているのだけで元気になれる、何よりも力をくれるネスの笑顔。
大好きな、その笑顔。
「傍にいるから、だから笑って欲しいな」
少しだけ抱きしめる力を強め、思いを込めて。
「……リュカ」
顔を上げて言ったネスの表情からは、先ほどまでの淋しさがウソのように薄れていた。
「ありがとう、リュカ」
目元は泣いて赤くなっていたけれど。
ネスが見せてくれた笑顔は、いつも通りの明るさをたたえていた。
+ + + + +
大好きなキミが笑ってくれれば、ぼくはすごく幸せ。
大好きなキミの笑顔の理由がぼくであるなら、ぼくはもっと幸せ。
ぼくが傍にいて笑ってくれるのなら、ぼくはいくらでもキミの傍に。
* * *
ちょっとしたヨタ話。
実は「夢と目覚めと呼び声と」の対として書いてみたものだったり。投下ものでもあるけど。
基本的にスマブラのCPは本当に無節操なほど色々好きで。
ネスリュカも好きだし、リュカネスも好きだし。
これは「リュカ→ネス」をイメージして書いたものの方ですね。
あとはネスサンのホームシック発動をやらかしたくて。
いつも自分を引っ張るネスサンを、こういう時にはちゃんと励ましてあげれるリュカってのが萌え。
* * * *