【 その名前は 】

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ずっと一人旅だった。
だから「仲間」というのはどうもよく実感できなかった。
いや、仲間はいたが、こういう場合はなんというのだろうか。

「さっきのアイクは散々だったねー。チーム戦なんだからがんばってもらわないと」
「それ、俺にボムを命中させたアンタが言える立場か?」
「投げるよって僕は言った!」
「ラティオスがバンバン飛んでたあの状況下で聞こえるかッ」

笑ったり、怒ったり、小突きあったりしながら気兼ねなく話して。
こういうのを、なんというのだろうか。


+ + + + +


マスターハンドの開催する大乱闘の大会に呼ばれて。
流れのまま、世界を手中に収めようとする亜空の敵と戦い、勝利を収めて。
さぁ、いざ平和になって乱闘を始めましょうとなって。
平和で楽しい時間が流れる空間で、一人リンクは微妙に落ち着かなさを感じていた。
悩みというには失礼かもしれないが、その心境の目下の原因はおそらくあの二人だろう。
亜空の敵を倒していく際に合流した仲間であり、同じくマスターハンドに呼ばれた大会の参加者でもある、ほぼ同年代の青い髪をした剣士二人。
一人はアリティアという国の王子、マルス。
晴天の空のような、さわやかな青の色彩の髪が特徴の、小奇麗な青年。
そしてもう一人はアイクという、この三人の中では一番体つきの良い青年だ。
彼はクリミアという国で、自ら傭兵団を率いて生活をしているという。
マルスと同じ色合いながら、彼の青は深い海を思わせるような紺碧。
この二人、別段なんら性格に問題があるというわけでもないのだが、いかんせん妙にリンクに絡んでくるのだ。
いや、アイクはそうでもない。
どうやら元々「無愛想」というのが板にあるらしく、思ったことは口にするものの口数は決して多いほうではない。
問題はマルスである。
彼は前回の大会にも呼ばれており、その時に違う時を生きた「リンク」に出会っていたのだという。

『似てるけど、でもやはり違うんだね』

少し挨拶をして名乗って、何気なく交わした彼からの会話の第一声がそれだった。
最初は何のことだか分からずに首をかしげていたが、彼は包み隠すこともなく『前回の大会にも勇気のトライフォースを宿した青年が参加していた』ことを話し、そしてその青年の名が「リンク」だったこと、そして同じように緑の装いをまとっていたということを話してくれた。
それが、自分の世界の過去の人物の事だと気付くのにはずいぶんかかったけれど。
マルスは別段、その「リンク」と目の前にいるリンクを混同するような事はなかった。
けれど、どういう親近感が沸いたのかは不明だが、妙につるむことが多くなっていった。
気付けばマルスはアイクとも交友を深めていたらしく――亜空で共に行動をしていたから当然かもしれないが――いつの間にか三人でいるのも平時になっていた。
同じ剣士ということもあり、また歳が近いということもあってか話すことに抵抗はなかった。
けれども、リンクはどうにもこういう「同年代との交友」というのになれていなかった。
元々村にいた子ども達は自分よりも年下で、同年代といえばイリアという幼馴染の女の子で。
旅をしていた際も、仲間はいたけれど一人旅だった。
だから、むずがゆさが抜けなかった。

「大体なんでチームアタックありの戦闘を選んだんだ。めんどくさいだろう」
「その方が面白いかなって」
「バカだろ、アンタバカだろ」
「失礼な。キミよりは知性派だよ」
「そういう意味じゃない。楽しむのは勝手だが、結果にまで文句つけるな」

あきれたように言うアイクに、明らかに状況を面白がっているマルス。
意外や意外、マルスはどうもオンとオフでの性格の差が非常に激しいらしく、普段は凛とした空気をまとっていながらこの面子になると、とたん子どものように素直になんでも口にする。
普段はしないような、ひねくれた表情もふてくされた表情も惜しげもなく表してくる。
アイクは元々身分などを気にする性格ではないらしく、どのようなマルスであってもいたって変わらぬ態度を貫き通しているようだが。

「……なぁ」

ふと、こちらをスルーしながらやり取りをしていた二人に声をかける。
首をかしげて「何?」と態度で聞くマルスと、自分に視線を向けるだけで表情を変えないアイク。
分かりやすいリアクションの差だなぁ、と思いながらリンクは頭を掻きながら続けた。

「なんでここで話してんの?」
「何が?」
「いや、俺関係にない話みたいだし……」
「関係ないって……そりゃそうだけど……」

唐突なリンクの言葉にマルスは少しばかり眉間にしわを寄せた。

「もしかしてうるさかった? ごめんね」
「いや、別にいいけどさ……」

俺がいる必要あるのかな、と内心でぼやくリンク。
と、そんな姿を見ておもむろにアイクが席を立ち上がった。

「アイク?」
「一人がいいなら、俺達は席を外すが?」

そうして促すようにマルスにも視線を配る。
当のマルスは「その方がいいの?」とでも言いたげにこちらを見つめてくる。

「いや、別にそういう意味じゃないんだけどさ」

どう言えばいいのだろう。
どう構えばいのだろう。
胸のもやが取れず、リンクは頬を指で掻いた。
二人の表情に、どうやら自分はあまり空気の読めていない発言をしたようだ。

「あーっと……俺に関係のない話だったから、ここでする意味あるのかなーって」

誤解を解いた方がいいかな、と弁明しようとしたが、出てきたのはさきほどと同じような台詞。
そういうことが言いたいわけではないのだが、こうとしか表現できずにリンクは一人自分にむかついた。

「えっと……なんつーんだろうなぁ……えっと」

接し方が分からない。
まるで自分が子どものように思えてなんだかもどかしかった。
仲良くしたくない、わけではないのだけれども。

「……そういえば、アンタは色々な武器が使えるよな」

もごもごと口ごもっていたリンクの言葉の合間を縫って、再びソファに座り直しながらアイクが言った。

「どこで覚えたんだ?」
「どこってか……必要だったからっつーか。俺、一人旅だったからさ」
「全部一人でこなしたのか」
「大体はなー。魔法が使える子が一緒にいたけどさ、その子は普通の世界じゃ戦えなかったから」
「ふぅん、すごいな」
「……そ、そうか?」
「あぁ、すごいと思う」

素直に褒め言葉を口にするアイクに、リンクは妙な照れを感じて視線をそらした。

「俺は大人数をやりくりするお前らのがすごいと思うけどな」
「そうか?」
「あぁ。俺、人を動かすのとかよくわかんねーしさぁ」
「いや、俺もそういうのはよく知らない」
「はぁ? 軍の総大将やってたんだろ?」
「軍の統率は気がついたらやってた。やらねばと思ったわけじゃないんだが……」
「なんだそりゃ。変なの」
「俺はただの一傭兵団をひっぱってただけだから。それも団長になりたてだったし……」

アイクの奇妙な回答にリンクは苦笑をもらす。
そんな会話を、マルスはふっと笑みを浮かべながら黙って聞いていた。

(あぁ、前にいた『リンク』も似たような事言ってたなぁ)

彼が言っていたのは、もう少し前向きな台詞だったけれども。

『俺、こんな大人数と一緒に過ごすの久しぶりだよ! コキリの森出てからずっと一人だったしさ』

そんな事を言ったら、彼のそばにいた小さな妖精が怒っていたっけか。
意外にも、アイクとリンクの会話は未だに続いていた。
基本はアイクが質問をして、リンクがそれに答えるというような形だったけれど。
会話の応酬になれていないらしいリンクには、交流を深めるにはちょうどいい形式かもしれない。

「統率とか指令とか、まとめるのはマルスのが上手いだろう」

ふと自分の名前が出て、マルスは会話を止めた二人を見つめた。

「……なんだい?」
「いや、お山の大将ってのはどんな気分なのかなーって思ってさ」
「ゼルダ姫だってお山の大将だよ?」
「そうだけど、姫の状況とお前の状況は全然違うだろー?」
「僕の所にはキミのような勇者は現れてくれなかったからね。来てくれたら世紀を越えて語られる英雄にしてあげたのに」

満面の笑みを浮かべていうマルスに、リンクは少しばかり顔を引きつらせて背もたれに身を沈めた。

「……なんでだろう。俺、お前の所には絶対に行きたくないって思った」
「あ、リンクはずいぶん酷い事を言うね」
「俺もそう思う」
「アイクまで!」
「どうせこき使う気満々だろ?」
「歴史に残るからにはそれなりに働いて功績を残してもらわなきゃね!」

含みのある笑みだなぁと、リンクは思いながらも言ったら百倍返しがきそうで踏み留まった。

「あー、なんか言いたげな顔」

ふと顔を覗き込まれ、リンクはあわてて首を横に振る。

「んなわけあるかよ」
「いーや! 絶対になんか思ったね、当たりだ、僕は見間違えない!」
「どっから来んだよ、その自信はさぁ……」
「今までの経験かな?」
「やな経験だな」

そう言い合って、ふっと笑うリンクを見てマルスは気付かれないようどこか安心したように微笑んだ。
大勢の中で感じる孤独も寂しいが、それさえ感じる暇もないというのも別の寂しさがある。
自分もこんな風に近い年齢の人間と、何の垣根も感じることなく会話が出来る場所があるだなんて思いもしなかったのだ。
慣れないのは分かる。
けれど、慣れればかけがえのない場所になる。

「ところで。午後からネスたちに付き添って街に行く約束してるんだけど、二人も来ない?」
「荷物持ちか?」
「かもねー。お菓子が欲しいって言ってたから」
「三人も必要なのかー?」
「そこまでじゃないだろうけど、気ままに散歩するってのも悪くないだろ?」

ふっと爽やかな笑みを浮かべる王子に、勇者と団長は顔を見合わせてつられる様に笑顔を見せた。


「いいじゃないか、友達なんだからさ」







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ちょっとしたヨタ話。
猛烈に剣士三人組の話が書きたくなって。
こっちに分類してますが、マルスとアイクは「マルネス・アイリュカ」気味な二人です。
でも出てくるのは三人だけなので、CP要素なしということで。
一人旅ばっかりで、挙句故郷には年下か同い年の女の子しかいなくて。
何気なく同世代との触れ合いとか距離感が分からないリンクに萌えた結果がこれです。
マルスがさりげなく全員のつなぎになってるというのも、ちょっと萌えの一つ(笑)




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