【 蝕甚 (しょくじん) 】
なんてことない、いつもの一日になるはずだった。
朝方、まだ日が昇る前に目が覚めてしまわなければ。
ふいに訪れた目覚めに、マルスは何度かゆっくりと瞬きをして身体を起こした。
窓の外はまだ薄暗く、朝が程遠いものであることを教えてくれた。
と、隣のベッドが空なのに気付き、マルスは辺りを見回した。
「あれ、アイク?」
ベッドの主を探して立ち上がると、部屋の隅からかすかに明かりが漏れているのが見えた。
それと同時に聞こえたのは、バスルームから響く水の滴る音。
「……シャワー浴びてるのか」
呟き、眠い目を擦りながら風呂場へと足を運ぶ。
何を横着していたのか、そこのドアは開け放たれたままであった。
「アイク、シャワー浴びるならドアを……」
風呂場を覗き込み、聞こえるのか不明なほど掠れた声で言いかけ、マルスはそのまま固まってしまった。
そこにいたアイクは当然のごとく裸だったわけだが、マルスが固まったのはそれが原因ではなかった。
額を壁に押し付け、腕で身体を支えながら、彼は自らの性器に手を這わせていた。
喘ぐような声は聞こえないが、水が流れ落ちる肩は大きく上下していて、彼の呼吸が荒い事を確かにしている。
顔は濡れた髪が垂れ下がっていてよく見えない。
けれど、身体がほんのり赤くなっているのはシャワーを浴びているせいだけではないだろう。
「はぁ……はッ……マル、ス……」
呟かれた自分の名前に、マルスは身体を強張らせる。
見つかってはならないと焦り、思わず背を預けるように壁にくっついてマルスはアイクの視界から身を隠してしまった。
よくよく後になって考えれば、すぐにその場から立ち去れば良かったのだ。
聞いてはいけないと、すぐにベッドにでも潜り込めば良かったのに。
なぜ「見つかってはならない」と考えたのだろうか。
「……っはぁ、は……ぁ……」
シャワーの滴る音の合間から聞こえる、アイクの低くも荒い呼吸に、マルスは自分が昂ぶるのを感じていた。
戻らなければ、と頭のどこかが叫んだが足が動かなかった。
自分の名前が囁かれる度に身体が痺れるようだった。
いつもは自分の身体の熱だけに捕らわれてしまい、感じているアイクの姿をしっかりを見る暇なんて無かった。
だから、こんなアイクを見たのは初めてだったかもしれない。
理性を保っているはずなのに、身体が熱くなっていくのが止められない。
耳を塞いでしまえばいいのに、その呼吸を聞き逃したくないと思ってしまう。
「マルス……」
まるで情事の時のような低い声。
普段の彼からは想像も出来ないような、甘く、そして卑猥な声。
終に居たたまれなくなり、マルスは足音をたてないように気をつけながらも、急いで自分のベッドへと潜り込んだ。
シーツを頭まで被り、アイクのベッドに背を向けて、瞳をキツク閉じながら眠りが来るように祈り続けた。
彼の声はここまでは届いては来なかった。
けれども、かすかに聞こえるシャワーの音は「アイクがそこにいる」という事を確かなものにしてしまう。
シャワーの音が途切れたら、彼が出てくる。
その前に眠ってくれと、マルスは必死で自分にそう言い聞かせていた。
+ + + + +
乱闘続きの一日を、ここまでありがたいと思ったことなどあっただろうか。
もし今日一日が何も無い平和な日であったとしたならば、朝の出来事が頭から離れなくて困ってしまっただろう。
戦ってさえいれば、目の前の現状に集中できる。
いつもは疲れるから、あまり連続して戦うのは好んではいないけれども。
決して答えも出ず、まして悩みというわけでもない悶々とした想いを抱え続けるよりはずっと楽だ。
「……ふぅ……」
剣を握り締めた手を見つめ、マルスは大きく息を吐いた。
乱闘が終わったあとは、誰とも話すこともなく逃げるように訓練部屋に足を運んだ。
戦った日のすぐ後にこんな所に来る人間は限られているし、何より使用中にすれば他人が入ってくることもない。
一人になるにはもってこいだったし、訓練していれば頭で考える時間も少なくできる。
空から降って沸いた最後の敵を切り伏せ、マルスは額に張り付いた前髪を指先で払った。
もうどれぐらいココにこもっているだろうか。
久しぶりに続いた乱闘は、休みを挟みつつ太陽が傾きそうになるまで続いていた。
それからすぐにこの部屋に駆け込み、一度も外に出ていない。
過ごした時間を大まかに考えれば夕食さえも過ぎているだろう。
アイクとも、朝に少し話をしただけでまともに顔を合わせていない。
昼の時でさえ、なんとか会話にはなったはずだがぎこちなさな感じられているはずだ。
剣を鞘に収め、マルスは何をするでもなく設定した戦場のフィールドで辺りをボーっと眺める。
このまますんなりと自室に戻るなんて出来そうになかった。
理由は自分の中にあるだけに、どうやれば解決できるのか分からなかった。
単純に言えば、アイクに会うのが気まずいだけなのだが。
それだけで片付かない理由や想いが自分の方にありすぎて、マルスは足を部屋に向けれなかった。
(マルス……)
思慮にふけってしまうと、朝のあの声が耳の中で響くようだった。
なんとかそれを遠ざけようと、マルスは頭を振る。
サラサラとした青い髪が少し乱れ、頬を叩いた。
ずっとここにいるわけにもいかない、けれど顔をあわせる事が出来るだろうか。
延々と同じ問いを自分に繰り返し、マルスは何度目になるか分からないため息を吐いた。
アイクの、あの行動を嫌悪しているわけではない。
彼のことは好きだ。
それは紛れもない事実だし、身体のつながりだってある。
問題は彼ではなく、彼のあの姿を見て昂ぶる自分だ。
あの姿を、声を思い出すだけで身体が震え、痺れそうになる。
そんな状態で、冷静に彼の前で過ごせる自信が無かった。
かといって自分から求めるような、そんな行動は理性の強いマルスには出来るはずもない。
「…………でも、戻らないわけにも行かないよな」
普段から訓練を好んで行なっているわけではないマルスが、長時間もここに入る時点で何かあるとは思われているはずだ。
ずっと逃げるわけにも行かないだろうし、何よりアイクが悪いわけではないのだ。
部屋に戻る前に、ハルバードの最下部に作られている大きなお風呂場でシャワーでも浴びて行こう。
少し頭でも冷やせば、どうってことないだろう。
自分が考えすぎなだけなんだ。
色々と頭の中で言い訳をし、マルスはフィールドを後にして控えの部屋へと戻った。
手早くパネルを操作し、訓練部屋の機能を停止させる。
鈍い音とともに、目の前に映っていた大型のモニターから戦場の風景が消え、室内はパネルの僅かな光沢だけが輝く薄暗いものへと変わった。
「早く頭冷やそう」
久しぶりに動きすぎたせいで身体も疲れている。
ふぅと小さく息を吐き、マルスは部屋を後にしようとドアへと振り向いた。
――シャッ……
その瞬間、目の前の扉が高い音をたてて開いた。
マルスからその扉はまだ遠く、彼以外の誰かが来た事によってドアは開いたのだろう。
「珍しいな。ずいぶん遅くまで」
目を見開いたマルスの前には、アイクがいた。
マントもなく、いつもの青い服を身に纏った軽装は、彼がくつろいでいた証拠だろう。
「ア、アイク……」
普段と変わらぬ様子のアイクと、思わず顔をそらしてしまうマルス。
視線を合わせようとしないマルスを気にも止めていないのか、アイクは平然と部屋に入り込んで来る。
アイクの背の向こうでドアが閉まり、再び室内は薄暗い光景へと戻った。
「アイク……あの、ごめんね」
「何がだ?」
「いや……迎え、来させたみたいだから……」
「俺が来たかったから来ただけだ。迷惑だったか?」
「そんなことは、ない」
どもりながらのマルスに、アイクは何も答えなかった。
怒っているという様子は無いが、薄暗くなった部屋ではアイクの表情は良く分からない。
「本当にごめん。心配とか、させた?」
「まぁな。お前がここに入り浸るなんて珍しいからな」
「そ、うだよね……」
苦笑するマルスに、アイクはふと一歩近づいた。
「何を考えていた?」
「何をって……?」
「戦闘にふけると言う事は、払拭したい考えでもあるんだろ?」
彼の鋭さは、時に恐ろしいほどの核心を付いてくる。
分かりやすい自分も問題だろうが、彼は微妙な変化からの察しが良すぎる。
「いや、えっと……本当に何でもないよ?」
にこりと何でもないように言ってみせるが、アイクからの返事はない。
代わりとばかりに、アイクは黙ったままゆっくりとマルスへと近づいてくる。
なんとなく押されるような形で、マルスも同じスピードで後退ってしまう。
腰のあたりにドンと衝撃を受けて、やっとパネルのテーブルが後ろにあったのを思い出した。
それと同時に、これ以上下がれないと言う事も思い出した。
「マルス」
名を呼ぶアイクの声の色が変わっているのに気付いてしまい、マルスは僅かに身を強張らせた。
あの声だ。
いつも自分を支配する、あの熱い色の声。
こんなときにその声で呼ばないでくれと、マルスは心の中で願う。
身体が震えそうになってしまう。
恐怖や恐れではなく、欲望によって――
「な、何……?」
やっと返事を返したマルスの声は、震えを隠すかのようにかすかな囁きにしかならなかった。
しかしアイクはその問いには答えず、それ以上下がれなくなったマルスにさらに詰め寄り、最終的にテーブルの上へと押し倒した。
「アイク……?」
「朝、見ただろう?」
耳元で囁かれたその言葉に、マルスの身体はごまかしが聞かないほどにビクリと揺れた。
確信を得たと言わんばかりにアイクは低い声で笑う。
「今日、顔を合わせなかったのは何故だ?」
「別にそれは…」
「俺を見ると興奮するからか?」
「そんなことっ」
「ない、か?」
「ウソをつくな」と、アイクの膝がマルスの下腹部を押し上げる。
身体に流れてきた痺れに、マルスは息を詰まらせ、肩を振るわせた。
「なら、なぜこんなにしている?」
僅かながら起ち始めているマルスの性器をさらに刺激するように、アイクは膝に力を込めていく。
「嫌なら俺の腹でも殴って逃げれば良いだろう。なぜ逃げない?」
腕を拘束されているわけでも、どこか縛られているわけでもない。
それでも、マルスは動けなかった。
いくら身体に愛撫が加えられはじめているとはいえ、それはまだ理性を押し流すほどのものではない。
それでも、アイクの問いにマルスは答えられなかった。
「無言は肯定と受け取るぞ?」
最後の警告という意味だと分かりながら、マルスは言葉を紡ぐことが出来なかった。
「嫌だ」と一言告げれば、アイクはこの上から離れていくだろう。
だが、心のどこかがそれを拒んでいる。
このまま流されたいと、そう思っている自分がいる。
「アイク……」
肯定も否定の言葉も出さず、マルスは自分を見下ろしているアイクの頬にそっと手を伸ばした。
「アイク」
マルスがもう一度名を呟くと、アイクはゆっくりと唇を重ねあわせた。
+ + + + +
「あ、んっ……」
暗い室内に響く粘着質な音と、合間に漏れる喘ぎ声。
マルスは青い髪を振り乱しながら、自分の性器に舌を這わせているアイクの髪を掴み、足を震わせていた。
わざとだと分かりながら、濡れた音を聞かせられるとどうしようもなく心が乱されてしまう。
「アイ、ク……あ、あっ……」
アイクの髪を掴むのは引き離すためか、それともそれ以上を望むためか。
一際強く吸われると、身体の奥から押さえきれない欲望が溢れてくる。
上着は乱されもせず、下も必要な場所を寛げられているだけだというのに、あられもない姿を晒している自分により羞恥がこみ上げてくる。
朝からくすぶっていた感覚が一気に燃え始めたかのように、身体がもっともっとと強欲になっていく。
跳ねてしまう身体も、上がる嬌声も止められず、マルスは与えられる快感に身をゆだねていた。
「あぁ、も、う……アイクっ」
髪を少しだけ引っ張られ、アイクは口内で包み込んでいたマルスの性器を解放し、少し顔を上げた。
テーブルのパネルの光だけに照らされたマルスの姿は、濡れそぼった性器と上気した顔以外何も変わっていないというのに、酷く卑猥に見える。
知らず喉をならすアイクに、マルスは震える指先でその頬をなぞり懇願した。
「お願い、もう、僕……」
「……どうすればいい?」
「……お、く……触って……」
先を促すアイクの言葉に躊躇しながらも、マルスは望みを告げた。
抱え込んでいた欲は留まる事を知らず、それ以上を望む。
理性より渇望の気持ちを選んだマルスに気付かれないよう、アイクはふっと笑い、彼の下を一気に引き剥がした。
一瞬ひやりとした空気を肌で感じたマルスだったが、それに意識を向ける暇すら与えまいとするアイクに足を持ち上げられてしまう。
恥ずかしいと思っても、再び性器を舐められ、次いで指で奥の秘所をなぞられては羞恥を気にする暇も無かった。
「入れるぞ」
「ん……あ、ぁああ!」
先走りで濡れたマルスの秘所は、いとも簡単にアイクの指を飲み込み、そして奥へと誘うように蠢いた。
「中、熱いな」
「ふっ……ぅあ、やっ!」
誘われるがまま内壁をなぞり、マルスの一番弱い場所を探っていく。
「そこ……っや、あああっ」
マルスの嬌声に、震える足に、ひくついて指を離さない秘所に、アイクはぞくぞくと背筋に快楽が走るのを感じた。
もっと喘がせたい、もっと乱れさせたい。
興奮して破裂しそうな自分の欲望を押し止め、アイクはマルスの性器を再び口に含んだ。
一気に溢れてきた独特な苦味のある先走りを吸い上げると、マルスの声がより高くなっていく。
「ア、イ……そんなに、したら……あっ、あ!」
内壁からの刺激と性器への愛撫で、マルスは完全に満たされる事しか考えられなくなっていた。
欲するがまま指を締め付けるが、徐々にそれだけでは足りなくなってきたのか、マルスは足を押さえているアイクの手を掴んだ。
「アイク、お願い……欲しい……」
「俺の、何が?」
性器から口を離し、イジワルだと分かっていながらアイクは問い掛ける。
指でぐちゃ…と音をさせながら性器を弄ると、マルスは震えながらアイクの手を握る力をかすかに強めてきた。
「お願い……アイクの、奥まで……」
震えた声で、濡れた瞳で、乱れた身体で。
愛しい人に甘く囁かれ、アイクは自分も相当興奮しているのを実感した。
荒い呼吸を繰り返すマルスの唇を塞ぎ、舌を絡めとって口内を貪る。
足を開いてその間に身体を割り込ませ、アイクは自らの前を寛げて猛っている性器をマルスの秘所に押し当てた。
「ひくついてるな、そんなに欲しいのか?」
「ッ言わないで……」
にやりとしながら言うアイクに、マルスは耳まで赤くしてその胸元へと顔を押し当ててきた。
そんなマルスを愛おしそうに抱きしめながら、望むがままに熱を秘所へと挿入していく。
「ん、ああっぁああ!」
「っく……」
中を犯していく熱に嬌声を上げ、マルスの身体は悦びに震えた。
アイクもまた、ゆっくりと飲み込んでいく熱い内壁に甘い痺れを感じながら、徐々に奥へと推し進めていく。
「マルスの中……熱いな……」
「アイクの、も……熱、いっ……あ、あっ!」
言葉を交わすのがもどかしいと思ってしまうほどの感覚に流され、アイクはマルスの足を抱えて律動を始めた。
誘うようにうごめく中を味わいながら、マルスが一番感じる場所だけを狙って身体を揺さぶる。
「あぁっ、そ、こは……!」
「ここがいいんだろ?」
「ひっぃ……あぁ、やっ!」
与えられる快楽に飲まれ、マルスは上半身をのけぞらせて喘いだ。
中を攻め立てるアイクの熱は、身体がおかしくなるのではと思うほどに身も心も侵食してくる。
一番感じる場所を突かれる度に、肌が重なる度に、マルスの性器からは先走りが零れ、腹を汚していく。
「アイク、ダメ……も、出ちゃうっ」
髪を振り乱して懇願するマルスを見て、アイクは唇の端を吊り上げた。
「淫乱だな、マルス……」
「いや、違っ…!」
「違わないだろう。戦闘に集中しないとダメなぐらい、欲しかったんだろ?」
囁かれる言葉に、マルスはキツく目を閉じることしか出来なかった。
言われる事、全てが真実だからだ。
朝のアイクの姿が忘れられず、昂る自分を誤魔化すために剣を握り続けていたのだから。
「……欲、しかった」
喘ぎの合間に小さく告げられた言葉の先を、アイクは求めた。
「マルス、なんだ?」
「欲しかった……あ、アイクの、が……あ、あぁっ!」
そこまで聞いて、アイクはもう一度マルスの足を抱え直し、深々と性器で彼の中を突き上げた。
いきなりの強い痺れに、マルスは頭が一気に真っ白になっていくのを感じた。
「あぁっ! いい、よ……!」
「ん?」
「アイクのっ……気持ち良くて、変になり、そ……」
珍しく酷く乱れるマルスに、アイクは自分も昂るのを押さえられなかった。
名を呼び、卑猥に喘ぐマルスの唇を塞ぎ、舌を絡める。
何度も角度を変え、貪るように口内を犯していく。
顔を少し離すと、混ざり合った唾液が糸を引いた。
「イッちゃ……! アイク、僕もうっ……」
「俺も、だ」
熱に流されたまま、二人はお互いを抱きしめながら絶頂へと上っていく。
「あぁ、アイク……アイクっ」
「っマルス……」
「ひっ、ぁああっ!」
あられもなく乱れたまま、マルスは嬌声を上げて精を吐き出した。
同じように自分の中でアイクが果てるのを感じ、その熱に身を震わせる。
「マルス……」
朝の時のような熱く、甘い声。
どうあがいても、やはり自分はこれを望んでしまうんだ、とマルスはボーっとした頭で現実を認めてしまうのだった。
+ + + + +
「あのさ」
「ん?」
「僕が見てたって、どこで気付いたの?」
部屋に戻り、一緒になってベッドに潜り込んで。
マルスはふと思っていた疑問を口にした。
「まさかシャワー浴びてる時に気付いてたとか?」
「あぁ、あの時になんとなくは気配を感じてたが。確信したのは視線が合わなかったからだな」
あの時点でもバレてたのか、と内心気まずくなるマルスだったが、次のアイクの言葉に少し目を見張った。
「正直、嫌われたかと思った」
「……え?」
何の事だろうとアイクの顔を見つめると、彼が視線をそらすという珍しい行動をした。
「朝のは、まぁ収まりがつかなくてああしてたんだが……」
恐らく男性特有の朝の現象の事だろうと察し、マルスは先を待った。
「ああなるとお前が頭から離れなくなるんだ。だからと言って名前を呼んだり……お前が良い顔をすると思えなくてだな」
理性が強いマルスのことだ。
あんな状態で名を呼んだりすれば、「僕で何を考えているのか」と言われそうな気がしたのだ。
「……そりゃあ、大歓喜するかって言われたら微妙だけど」
どう上手く言おうか、マルスは言葉を小出しにしながら続きを言った。
「少なくとも、他の誰かを想像されるよりは……いい、と思う……」
「そうか?」
「だ、だからって……その、朝みたいなことするなら扉ちゃんと閉めてくれよ!」
「ん、まぁそれはそうだが……」
――見つかれば、マルスも昂ぶって自分を考えてくれるのか。
なんて考えが浮んでしまい、アイクは知らず目を泳がせる。
「アイク、今何考えた?」
「いや、別に」
「ウソつくな! どうせ変なこと考えてたくせに!」
「いででで」
ぐいーとアイクの頬を指先でつねり、マルスは大きくため息を吐いた。
「まったく、キミには振り回されっぱなしだ……」
「む、すまん」
「……別に」
(自分を制御できないぐらい、キミのことを考えてしまうって意味なんだけど)
口にすると調子に乗られそうだから、あえてマルスは心の中だけでそう付け足しておくことにした。
「マルス」
優しく名を呼ばれ、アイクの胸元へを顔を押し当てればたくましい腕が身体を抱きしめてくれる。
耳に響く、ゆっくりとした彼の胸の鼓動を心地良いと感じてしまう。
結局のところ、こうして一緒にいられるのが幸せだと思ってしまうのだ。
「暖かいね」
「そうだな」
「……アイク」
「ん?」
「おやすみ」
「……あぁ、おやすみ」
とりとめのない言葉を交わし、マルスはゆっくりと瞳を閉じて眠りへと落ちていった。
* * * *
ちょっとしたヨタ話。
結局のところ、マルスだってアイクが大好きなんだ! そういう感じで……
エロ話についてはヨタ話がしにくいです(´∀`;
ちょっとイジワルしてますが、アイクはマルス大好きですよ?(笑)
* * * *