【 うたた寝 】

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某所に投下したネタだったりします。
アイクとピカとカービィ、マルスでのほのぼのなネタです。






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困った事になった。
いや、ものすごく大変な事という訳じゃないが。
それでも動けないというのは非常に困った事にしていいと思う。
別に手足を拘束されているわけではない。
むしろその方がまだ無理やりにでも脱出できるから楽かもしれない、とも思う。


そこまで考えて、背後で気持ち良さそうな寝息を立てている二人……ちがう、二匹か?
いやもうどっちでもいいか、よく分からなくなってきた。
とりあえず、人のマントと背をベッドにしてすやすやと眠っているカービィとピカチュウをどうにかしないと、
俺はまったくもって動けないわけだ。

「……どうしたものか」

ぼやいてみても周りには誰もいない。
ここは戦艦ハルバードの甲板で、見渡す範囲に人はいない。
叫んだとしても多分誰にも聞こえないだろうし、何より背後が気がかりでそんな事不可能だ。

「……まいったな」

さっきから出てくるのはこんな単語ばっかりだ。
実際それ以外に何も言う事が無いから仕方がないんだが。

ふと暇になり、なんでこんなことになったのか思い出してみた。
特に目立った理由なんてないような気がする。
少なくとも俺は剣の手入れをしていただけだ。
日当たりがいいから甲板に出て、誰と話すわけでもなく黙々と剣を弄っていただけだ。
そこに二人(?)が来たんだっけか。
ぽよぽよと見慣れた動きで空を浮ぶカービィと、その下をチョコチョコと歩いていたのがピカチュウ。
二人は俺を見つけるや否や、「アイクがいた!」とでも言わんばかりの表情で駆け寄ってきたんだ。
その間も俺はもちろん剣に触れていたわけで、

「危ないから離れていろ」

そう言うと、二人は顔を見合わせた後ひょいと俺の頭上を飛び越えて背後に回り込んで――

そのまま俺のマントで遊び始めたんだ。

ぐいぐいとカービィが俺のマントを引っ張り、ピカチュウがその上に乗って遊んでいたり。
二人してそれに包まってきゃいきゃい笑ってもいたか。
なぜか急に俺を吸い込もうとしていたカービィに、慌てて「止せ」と言った記憶もある。
マントが引っ張られるせいで首が絞まってきたりして、微妙な息苦しさも感じたな。
「苦しいぞ」と簡素に伝えれば力を弱めはしたが、マントで遊ぶ事自体はやめる様子がなかった。
何が楽しいのか良くわからないが、そういえば以前にマルスのマントにも二人で飛び掛っていたような気がする。
確かその時、マルスも剣の手入れをしていたような。
その時、二人はマルスの剣の手入れが終わると同時にマントに戯れるのを止めていた。

だが今の状況はどうだ?

二人は俺の背でぐっすりと眠り込んでいるじゃないか。
騒がしいというほどでもなかった遊び声に慣れてしまっていたのか、静かになった事にさえ俺は気付けなかったようだ。

「俺の背は枕じゃないぞ」

呟いても目覚めるわけが無い。
かといって無理に起こすのも忍びない。
だが俺のこの位置からでは二人を抱えて運ぶと言う事も不可能だ。

八方塞り。

そんな単語が頭をよぎって、そして消えた。

「……どうしたものか」

これを言ったのは何回目だろうかとため息を吐く。
と、風の合間に扉の開く音が聞こえた。
落胆させていた顔を上げると、丁度こちらを向いたマルスと目があった。
助け舟だ。
大声を出そうとしたのか口元に手を持っていった彼に、慌てて自分の人差し指で唇を抑えてそれを止めるように合図する。
首をかしげながらもそれを素直に受け止めてくれたのか、マルスがゆっくりとこちらに歩いてきた。

「どうしたんだい?」

問いに目で背後を指すことで答える。
視線をなぞるように背を覗き込んだマルスは、直後にフッと笑みを漏らした。

「寝ちゃったんだ?」
「らしい」
「もしかして動けなくなってた?」
「あぁ、正直助かった」
「それは良いタイミングだったみたいだね。起こしちゃう?」
「いや、出来れば運んでやって欲しいんだが」
「そう? わかった」

じゃあ毛布でも取って来るよと言い、マルスがその場を離れていくのを見送り、俺はため息を吐いた。
とは言っても「安堵」の意味合いが強いため息だが。
あぐらをかいていた足に肘をつき、もう一度大きく息を吐き出す。
これでやっと開放される。
別に二人が遊んでいるのも、こうしてマントに戯れているのも構わないのだが。
こう穏やかに寝付かれていると、気を使って上手く動く事も出来なくなってしまう。

「出来れば今度は前で寝てくれ」

――そうしたら俺がちゃんとベッドに運んでやるから。

心の中でつけたし、俺はそのまま瞳を閉じる。
ふと、空から降り注ぐ陽光が暖かくて気持ち良いなと感じた。

――これじゃあ眠くなるのも無理ないかもしれない、な……




・・・・・




ふと天気が良いのが目に付いて甲板に出てみたら、あぐらをかき困ったような表情のアイクがそこにいた。
声をかけようとしたら、人差し指で唇を抑えて「やめろ」と暗に示された。
なんだろうと思い傍によると、後ろでカービィやピカチュウがぐっすりとねむこけているではないか。
起こそうかと僕が言うと、アイクは「運んでくれ」と言う。
案外彼はこういう状態に弱いと言うか、けっこう優しい。
子ども達に遊んでくれとせがまれれば、よほどの理由が無ければ付き合ってもいるし。
見た目や態度は無愛想だし、戦場に出れば勇んで突っこんで行くタイプだけれど、そうでない普段の時の雰囲気は皆が理解しているのだろう。
二人を何かで包んであげた方がいいと思って探した小さめの毛布を手に、来た道を戻りアイクに駆け寄っていく。

「持って来たよ、アイク……アイク?」

どうしたことか、ピクリとも動かない彼の顔を覗き込んでみる。

――寝てる。

背とマントをベッド代わりにすやすやと眠る二人と同じように、腕で顔を支えたままアイクも眠っていた。
意外に無防備なその寝顔に、珍しいものが見れたなーなどと思ってしまう僕は不謹慎なのかな。
こうして見ると、やっぱり歳が近いんだなとか感じる。
普段は無愛想な部分もあってか妙に大人びて見えるんだけれど。
あー、でもご飯の時に肉を多く取るのは子供っぽいかも。
色々考えて噴き出してしまったら、アイクの瞼がかすかに動き、ゆっくりと開いていった。
何度か瞬きを繰り返し、視線だけで辺りを見回す表情は「俺は寝ていたのか?」と言っているようだ。

「おはよう、お待たせ」
「……ん」

眠たそうに目を擦るアイクに毛布を見せ、後ろに回り込んで相変わらず眠ってる二人を包んで抱き上げる。
起きてしまわないか心配だったが、かなり熟睡しているようで目を覚ます様子は無かった。

「起きないな」

腕の中の二人を覗き込み、ピカチュウの鼻を指先でいじるアイク。
くすぐったいのだろう、「ピカ〜」と小さい鳴き声を漏らして身をよじり、そのまま再び寝息を立て始めてしまう。

「次から寝るなら目の前で寝てくれ」

傍らに置いてあった剣を手にしながら、アイクは続ける。

「それならベッドにでもソファにでも運んでやれる」

唐突な言葉に、僕は少し眼を見張った。
普通ならば『迷惑だから傍で寝ないで欲しい』となりそうなものだけれど。

「……アイクは優しいね」
「そうか?」

至って普通に問う彼に頷きを返す。

『運んでやるから目の前で寝て欲しい』

「うん、優しいよ」
「……繰り返されるとなんかむず痒い」
「あはは、ごめんごめん」

腕の中の二人を抱えなおし、歩き出したアイクの後をついていく。

「ねぇ、二人を置いたら手合わせに付き合ってくれない? 実は探していたんだ」
「俺を?」
「うん、ダメかな?」
「構わない。が、少し眠いから動きが鈍いかも知れない」
「それじゃあ僕が勝っていいのかな」
「……手は抜かない」
「それはどうも」





――後日、自身のマントで二人を包み込んでソファに寝かせているアイクがいたらしいが、それはまた別の話のことである。





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