【 夢と目覚めと呼び声と 】

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ときどき恐い夢を見る。
どんな夢か分かっているけど、あまり思い出したくない。
すごく、すごく嫌な夢だから。

だって、夢じゃなくて現実にあったことなんだから。


その夢を見た朝は目覚めがすごく悪い。
涙で目も腫れし、頭もなんだかダルく感じるから。
動きたくないなぁともう一度布団を頭まで被る。
けれど目は閉じない。
夢を見たくないからだ。

寝たいわけじゃない。
でも動きたくない。

結果としてベッドから出ることもなく、リュカは大きくため息を吐いて目の前に広がる白いシーツを見つめ続けた。
瞬きをするたびにまぶたがちょっと痛い。
擦りすぎたのかもしれない。
無意識だからあまり覚えていないけれど。

――コンコン……

二度目のため息を吐いたと同時にドアがノックされた。
誰だろう、でも出る気はやっぱり無い。

――コンコンコン……

遠慮がちに、けれど確実に出てきてくれと言う意味合いでだろうか、ノックの回数が増えた。
でもやっぱり、動きたくない。

――コンコン……

「リュカ、まだ寝てるの?」

聞こえてきたのはネスの声。
ハッと顔を上げようとしたリュカだったが、自分の痛むまぶたに泣いていた事を思い出した。
あまり見られたくないかも。
そんな妙な意地が出てしまい、結局ベッドから下りる事はしなかった。

「開けるよ、いい?」

少しの間を置いて、ドアが開く音がした。
そして遠慮がちな靴の音。
「リュカ?」
さっきよりはっきりと聞こえる声。
「寝てるの?」
その言葉に、少しだけシーツを下げて頭を出す。
顔は隠したままだったけれど。
「起きてたの? どうしたの?」
もうすぐ朝ごはんの時間になるよ、とネスはシーツを覗き込む。
無理やりにはがそうとしないのは彼の優しさだろう。
「具合、悪いの?」
「…………ぁう」
「え?」
「ちが、う……」
「……リュカ?」
自分が思っていたよりも枯れている声に、名前を呼ぶネスも疑問が浮かんだようだ。
「……泣いてる?」
あっさりバレて、リュカはますます顔を出すのを躊躇ってしまった。
シーツを握る手に力が入ってしまうのも、多分見られているだろう。
でも、ネスは何も言わなかった。
聞いてくることも無かった。

「ネス、どうかした?」

しばらく静かな時間が過ぎたのち、一人の青年の声が入り込んできた。
「マルス兄ちゃん、アイク兄ちゃん?」
開きっぱなしだったドアから覗いたのはマルスだった。
傍にはアイクもいる。
「リュカくん、具合悪いのかい?」
心配そうな声のマルスに、リュカは部屋に入られないか不安になってしまった。

――泣き顔を見られたくない。

それは小さな少年が持つ一つの意地だったのかもしれない。

「あ、そうみたい。リュカの様子はぼくが見るよ。マルス兄ちゃん達は先に行ってて」

そんなリュカの意思を汲み取ったのだろうか、ネスはそう笑顔で言いマルス達の背を押す。
「本当に大丈夫?」
「うん、よっぽど酷かったら呼ぶよ」
「そう、分かった」
笑顔でうなずくネスに見送られ、マルスとアイクは部屋を後に廊下に消えていく。

「……余計なことしちゃった?」

扉を閉め、再びベッドのそばに戻ってきたネスは、どこか申し訳なさそうに言う。
首を振り、今度はしっかりと顔を出してリュカはネスを見上げた。
「ううん、ありがとう……」
腫れた目をしたリュカに、ネスは内心で少し驚きながらも笑顔を返した。
「具合が悪いんじゃないんだよね?」
それにうなずくと、良かったとネス。
「……しばらく一人になる?」
話さないのは話したくないのかも。
そう考えたのだろうネスに、リュカはもう一度首を振る。

「一人は、やだ」

呟くと夢の光景が頭をかすめていく。

いつも二人だったのに。
いつも一緒だったのに。

どうしてぼく達は離ればなれにならなければいけなかったのか。

それも、自分達の手によって。

頬に零れる雫を止められず、リュカは再び頭までシーツにくるまる。
あの時はこらえる事が出来たはずの涙。
けれど同じ時を夢に見るようになってからは、とてもじゃないが抑えきれるものではなくなっていた。

避けられなかった道なのかも知れない。
兄のされたことを考えても、遅かれ早かれ事実は突きつけられたのだろう。

お父さんのそばに一人。
お母さんのそばに一人。

それでもぼくら二人は、もう――


    また会えるよな。


「クラウス……」

名を呟くと、いよいよ押さえが効かなくなってくる。
唇を噛んで堪えてみるが、気休めにもなりはしない。

寂しい。
寂しい。
寂しい。

「……リュカ」

ふいに名前が呼ばれ、シーツを握りしめていた手が暖かくなった。
おずおずと目だけで手を見ると、自分と同じぐらいの大きさの手がそれを包み込んでくれていた。

「リュカ」

暖かい声。

「ネス?」
「辛いなら泣いていいよ。ぼくしかいないし」
あ、ぼくがいちゃ泣けないかと苦笑いのネスに、リュカはぶんぶんと首を横に振った。
「ぼく、かっこ悪い……」
「何が?」
「こんなメソメソして……かっこ悪いや……」
ネスの手を握り返しながらリュカは呟いた。

「クラウスなら、泣かないのかな……」

「……泣くのはかっこ悪くないよ」
長い長い間を置いてネスが言った。
「悲しいのに悲しくないとか、辛いのに辛くないとか。ウソをつく方がカッコ悪いと思う」
「ネス……」
「クラウスのこと、ぼくはあんまり知らないけど……でもリュカのお兄さんだったんでしょ?」
小さくうなずくと、ネスは続けた。
「大好きで、仲良しだったんでしょ?」

それにもうなずく。

「いなくなっちゃって、寂しいって思ったんでしょ?」

少し躊躇って、それでもリュカはうなずいた。
どれもこれも、ウソじゃないから。

「なら泣いていいんじゃないかな。それだけリュカにとってお兄さんは大事だったんでしょ?」

ゆっくりと、リュカはうなずく。
まぶたから零れる涙も気にせず、何度も何度もうなずいた。

「ぼくはネスだから、リュカのお兄さんにはなれない。でもリュカの友達だよ!」

だから、一人じゃないよ。

言葉にされなくても、握ってくれている暖かい手がそう教えてくれた。

「ネス……」
「なに?」
「ありがとう」
「ううん、どういたしまし…」


――ぐぅ〜………


「……ネス?」
「あ、お腹空いたって身体が言ってるみたい……」
困ったように笑うネスに、リュカは頬の涙も拭わぬままに笑った。
「あはははっ、ネスかっこ悪いや」
「えぇ、酷いよ!」
「だってすごくかっこいいこと教えてくれたのに……あはは!」
「笑うなってば。あーもう、ぼく先に行ってご飯食べちゃうから!」
「え、そんな酷い!」
「早くしないとアイク兄ちゃんに肉取られちゃうし、カービィに残り全部吸われちゃうよ?」
「待って、すぐ準備する!」

言うが早くシーツから飛び起き、そばに置いてあるいつもの服に袖を通す。
振り返ると、ドアを開けたネスが笑顔で手を伸ばして待っていた。

「リュカ、早く!」

いつかの兄の姿と重なる言葉。
兄とは違う。
でも自分を呼んでくれる確かな声。

「今いくよ、ネス!」

リュカはまぶたに残っていた涙を拭い、笑顔でネスの手を握り返した。
繋いだ手を見て笑い合い、二人は一気に廊下を駆け出して行った。





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逆のに、リュカがネスを励ますネタも書いたりしました。
ネスサンのフィールド魔法、ホームシック発動!みたいな感じのを。






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